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大阪地方裁判所 昭和44年(レ)65号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、次の事実は当事者間に争いがない。

(一) 控訴人を申立人、訴外椋本浅治良を相手方とする大阪簡易裁判所昭和三〇年(ユ)第九八号延滞地代請求調停事件につき、昭和三〇年一〇月三日、左記条項の調停が成立し、調書が作成されたこと。

(1)、椋本浅治良は控訴人に対し、控訴人から賃借中の大阪市東淀川区三国町七二二番地(昭和三三年五月一日町名地番改正により同区西三国町三丁目八九番地)宅地一八〇坪四合九勺(596.66平方メートル、以下本件土地という)の昭和三〇年九月末日現在の延滞地代金六二、七六〇円の支払義務があることを認め、これを同年一一月八日被告代理人小松辰郎方に持参して支払う。

(2)、控訴人は椋本浅治良に対し本件土地を、期間は昭和一八年八月一八日から二〇年間、賃料は昭和三〇年一〇月一日以降一ケ月金二、五〇〇円毎月末日持参払の約定で賃貸する。

(3)、椋本浅治良が前項の賃料を六ケ月分以上遅滞したときは、控訴人において右賃貸借契約を解除し本件土地上の原判決添付目録記載の家屋(以下本件家屋という)他七戸の収去と同土地の明渡を求めることができる。この請求があつたときは、椋本浅治良は右家屋他七戸を収去したうえ本件土地を控訴人に明け渡さなければならない。

(二) その後、控訴人は、椋本浅治良が昭和三一年一月一日から同年六月末日までの間の賃料を支払わなかつたため本件土地の貸賃借契約を昭和三一年七月四日解約したとして、被控訴人に対して強制執行をするため承継執行文付与の申請をし、昭和四二年四月一二日大阪簡易裁判所書記官日置泰二は前記調停調書につき次のような承継執行文を付与したことと。

「前記の正本は裁判官の命令により左記承継人北畠光雄に対し本件建物部分の土地明渡強制執行のため申立人渡辺マサエにこれを付与する。

相手方椋本浅治良の承継人西野義一の承継人井上初子・井上竜夫・西野好子・西野政子・西野弘祐・西野カズエの承継人北畠光雄」

二、そこでまず被控訴人が椋本浅治良の控訴人に対する建物収去土地明渡義務の承継人であるか否かについて判断する。

(一) 椋本浅治良は本件土地上に本件家屋等を所有していたが、昭和三〇年一一月二日西野義一に対し本件家屋の所有権を譲渡したことは当事者間に争いがない。そして<証拠>によれば、西野義一は昭和三〇年一二月一日本件家屋を被控訴人に売渡したことが認められ、右認定に反する証拠はなく、被控訴人が昭和三五年三月三〇日本件家屋の所有権取得登記を経由したことは当事者間に争いがない。そして右事実に前記一の事実をあわせ考えると、本件家屋の所有権が椋本浅治良から西野義一を経て被控訴人に譲渡されるに伴い、本件家屋の敷地(以下本件敷地という)賃借権も椋本浅治良から西野義一を経て被控訴人に譲渡されたものと認めるのが相当である。

(二) 尚被控訴人は、右賃借権を譲り受けるにあたつて控訴人の承諾を得た、然らずとするも昭和三四年までの間に控訴人との間に新たに本件土地の賃貸借契約を締結した旨主張するが、右主張を認めるに足る的確な証拠はない。

したがつて、被控訴人は椋本浅治良から西野義一を経て本件建物の所有権と本件敷地の賃借権を譲り受けたが、右賃借権の譲渡には控訴人の承諾がないのであるから、被控訴人が椋本浅治良の控訴人に対する本件敷地の賃貸借契約上の地位を承継したとは言いえない。

(三) ところで、債務名義に表示されている建物を収去してその敷地を明渡す義務のある者から、該建物を譲り受け敷地を占有する者が民事訴訟法第二〇一条第一項、第五一九条にいう右義務の承継人に該当するか否かは、訴訟物たる権利関係の実体的性質、ことに物権的請求権であるか債権的請求権であるかにより相違し、右義務が所有権に基づく物権的請求権に対応するものであるときは右占有者はその承継人といい得るけれども、右義務が賃貸借の解除による原状回復請求の如き債権的請求権に対応するものであるときは右占有者は右義務の承継人に該当しないと解するのが相当である。蓋し、所有権に基づく目的物の返還請求や妨害排除請求の如き物権的請求権に対応する義務は、目的物自体に固着するものとして、現在目的物を占有する者ないしこれに対する妨害物件を所有する者が負うのであつて、この種物権的請求訴訟において相手方となる資格は目的物の占有者ないし妨害物件の所有者たることに基づいて認められるのであるから、目的物の引渡、妨害物件の収去を命ずる確定判決の口頭弁論終結後に、第三者が妨害物件を譲受けその所有権と目的物に対する占有を取得したときは、これに伴つて第三者は前主から収去引渡義務の負担者たる地位を承継し、確定判決の効力を受けることになるが、これに反し、賃貸借の解除等その終了を原因とする目的物の明渡請求訴訟において相手方となる資格のあるのは賃貸借の借主に限られ、借主が現在目的物を占有しているか否かは関係がないから、目的物の明渡を命ずる確定判決の口頭弁論終結後に、第三者が目的物に対する占有の移転を受けても、借主に対する確定判決の効力は第三者に及ばないのであり、債務名義が調停調書である場合においてもこれと異なることはない。

然るところ控訴人が昭和三一年七月四日控訴人と椋本浅治良間の本件土地賃貸借契約を、椋本浅治良に六ケ月分の賃料の遅滞があるとして、同人に対し解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証(調停調書)によれば、本件調停調書中には控訴人が本件土地の所有者である旨の記載は全然ないことが記載上明白であり、右事実と前記一の当事者間に争いのない事実を綜合すると、本件調停によつて椋本浅治良が控訴人に対して負担する本件建物収去・本件敷地明渡義務は、控訴人が椋本浅治良との間の本件土地賃貸借契約を解除することにより発生する借主の原状回復義務であつて、いわゆる債権的請求権に対応するものであると認めるほかはない。

従つて、被控訴人は本件建物を買受け、現に本件敷地の占有者であるが、本件調停調書に表示されている椋本浅治良の控訴人に対する本件建物収去・本件敷地地明渡義務の承継人に該当する者とはいえない。

(石川泰 鐘尾彰文 重吉孝一郎)

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